私は、山奥にひっそりと佇む古い神社を訪れた。この神社は「無音の神社」と呼ばれ、奇妙な伝説があるらしい。地元の人は皆、その話を避ける。不思議に思いつつ、私は真実を探ることにした。

神社への道は険しく、周囲は深い森に覆われていた。木々の間を抜ける風さえ、何故か音を立てない。神社に近づくにつれ、世界から音が消えていくような感覚に襲われた。

鳥居をくぐった瞬間、耳鳴りのような静寂が私を包んだ。声を出してみたが、何の音もしない。不安に駆られながらも、私は境内に足を踏み入れた。

そこには年季の入った本殿があり、色あせた絵馬が風にも動かされずに静かにぶら下がっていた。神社の奥には、小さな社があった。その社の前には、何かを祈るように座っている老婆の姿があった。

老婆に声をかけようとしたが、やはり音は出ない。老婆はゆっくりとこちらを向き、にっこりと微笑んだ。その顔には目がなかった。驚きのあまり後ずさると、彼女は消えた。

怖くなり、私は急いで神社を後にした。下山する途中、耳の聞こえが戻った。村に戻り、地元の人にその話をすると、彼らは青ざめた。

彼らによると、その神社は昔、村を守るためのものだったが、ある日突然、音が消えたという。以来、村人は誰も近づかない。老婆の正体についても、彼らは何も知らないと言った。

その晩、宿で眠ろうとしたが、何かが気になって眠れなかった。窓の外を見ると、先ほどの老婆が立っていた。目のない顔で私をじっと見つめている。恐怖で声も出ず、布団に隠れた。

翌朝、老婆の姿はなかった。私はすぐに村を離れた。しかし、その後も時折、耳元で老婆の笑い声が聞こえるような気がする。音が消える瞬間もある。無音の神社の呪いか、それともただの気のせいか。

私は今もその答えを探している。