国税庁の解釈と整合的な規範(草稿)

およそ財産的価値には、使用価値(value in use. cf. A. Smith. The Wealth of Nations. G. ed., vol.2, p.45. Oxford, 1976.)とそれ以外の価値がある。実用性(utility)のある資産は、その固有の使用価値を有しているといえる。

たとえば、収集用の支払手段は、コレクションとして鑑賞するなど、固有の使用価値を有している。逆に、金銭債権は、それ自体に使用価値はなく、他の財産的価値と交換して初めて効用(utility)を得ることができる資産である。

ところで、譲渡所得とは「資産」(所得税法33条)の譲渡による所得であり、この譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁,最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。

そして、この増加益とは、使用価値の増加益のことであり、固有の使用価値のない資産については所得税法33条にいう「資産」に該当しないと考えられる。

たとえば、固有の使用価値のない資産、例えば金銭債権については、その譲渡により生じた利益は、その債権の元本の増加益すなわちキャピタル・ゲインそのものではなく、金利に相当するものであると考えられる(DHCコンメンタール所得税法2505頁)ことから、所得税法33条にいう「資産」に該当しない(所得税基本通達33-1参照)。

また、同じく使用価値のない資産として不換紙幣があるが、これについても、相対的な関係の中で換算上のレートが変動することはあっても、それ自体が価値の尺度とされており、資産の価値の増加益を観念することは困難であるため(国会答弁)、所得税法33条にいう「資産」に該当しない。

さらに、固有の使用価値のない、すなわち、代価の弁済のために不特定の者に対して使用する以外に用途のない暗号資産については、そのの譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にするものと考えられるため(国会答弁)、所得税法33条にいう「資産」に該当しない。

上記の考察によれば、所得税法33条にいう「資産」とは固有の使用価値を有する資産のことであると縮小解釈するのが相当である。
もっとも、「憲法は,国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うことを定め(30条),新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要としており(84条),それゆえ,課税要件及び租税の賦課徴収の手続は,法律で明確に定めることが必要である(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。そして,このような租税法律主義の原則に照らすと,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないというべきであり(最高裁昭和43年(行ツ)第90号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1333頁,最高裁平成19年(行ヒ)第105号同22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁参照)」(最高裁平成27年7月17日判決、判例タイムズ1418号86頁)、上記のような縮小解釈は、明らかに固有の使用価値がないと認められる資産についてのみ許されると解すべきであつて、固有の使用価値がないとまでは言えない、性質のあいまいな資産については、法律の用語の自然な解釈に従い、所得税法33条にいう「資産」に該当するものと取り扱うのが相当である。

(以下事実関係草稿)
以下の事実が認められることから、モナコイン(ビットコイン・イーサリアム)には固有の使用価値があると推認される。

1 モナコインの保有者は、マイナーに対してモナコインを移転することにより、ブロックチェーンに記録をすることができる。
未完

(以下あてはめ草稿)

そこで、このことを暗号資産モナコイン(ビットコイン・イーサリアム)について検討すると、モナコインは固有の使用価値を有するため、所得税法33条にいう「資産」に該当する。
→モナコインの譲渡による所得は原則として譲渡所得に該当する。