取引等に係る税務上の取扱い等に関する事前照会(案)

正月休みがつぶれた。。。

⑧事前照会の趣旨(別紙1-1)

別紙1-2記載の事実関係のもとで生じた所得(以下「本件所得」といいます。)は、所得税法(昭和40年法律第33号)第33条に規定する譲渡所得に該当します。

以上のとおりの見解で差し支えないかどうか文書による回答を受けたいので照会します。

なお、国税庁『暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)』(令和3年12月22日付け個人課税課情報第6号ほか5課共同別添)12頁によりますと、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」といいます。)第2条第5項に規定する暗号資産の「取引により生じた利益は、所得税の課税対象になり、原則として雑所得に区分」されると記載されており、その理由として、『第198回国会参議院財政金融委員会会議録第5号』21頁〔星野財務省主税局長答弁〕では、暗号資産は、「外国通貨と同様に本邦通貨との相対的な関係の中で換算上のレートが変動することはあっても、それ自体が価値の尺度とされており、資産の価値の増加益を観念することが困難」であるためとされていますが、今回照会させていただくのは、別紙1-3で述べますとおり、この前提と異なり、増加益を観念することのできる暗号資産が存在し、その譲渡について、取引等に係る税務上の取扱い等が、法令、法令解釈通達あるいは過去に公表された質疑事例等において明らかになっていないためです。

⑨事前照会に係る取引等の事実関係(別紙1-2)

1 事前照会者が行った取引

居住者である事前照会者は、平成26年3月29日よりAsk Monaという暗号資産モナコインをやり取りできる電子掲示板(以下「当サイト」といいます。)を運営しております。

当サイトでは、利用者からモナコインを預かり、事前照会者の責任でこれを管理しておりますが、暗号資産は詐欺や盗難にあうリスクが高いことから、自身の責任財産の保全ないし利用者保護のため、平成27年11月5日よりモナコイン****MONA(以下「本件準履行保証暗号資産」といいます。)を自己の暗号資産として保有し、当該モナコイン以外の自己のモナコインと分別して管理しておりました。

ところが、令和元年5月31日に資金決済法が改正され、利用者から暗号資産を預かることが事実上不可能になりましたことから、当サイトでは新規にモナコインを預かることを取りやめ、すでに預かったモナコインを利用者に返還する措置をとりましたため、当サイトで預かっていたモナコインの残高は著明に減少し、本件準履行保証暗号資産の一部につきましては、保有する必要がなくなりました。

このため令和4年1月31日、本件準履行保証暗号資産の一部を譲渡することにより、債務の弁済をしましたところ、譲渡時におけるモナコインの市価が、本件準履行保証暗号資産の取得時と比較して、譲渡に要した費用を補って余りある程度にに上昇していたという事情があったため、所得が生ずることとなりました。

なお、事前照会者は、モナコインのブロックチェーンに記録された取引のうち、どれだけの割合がOP_RETURNという仕組みを用いているかを調査してもらいましたが、当該譲渡によって弁済された債務とは、その調査の代価のことです。

また、当該譲渡につきましては、以下の事実が認められますことから、営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡に該当しないと考えられます。
 (1) 本件準履行保証暗号資産は、当サイト運営において必ずしも必要のないものであり、当該譲渡は、たな卸資産のように当サイト運営に付随して経常的に派生しているものではないこと。
 (2) 本件準履行保証暗号資産は、保有して以来ほとんど放置するのみで、本件所得は資金決済法の改正やモナコイン市価の変動といった外的要因によるものであり、事前照会者の人的努力と活動によるものでないこと。
 (3) 本件準履行保証暗号資産の譲渡回数は平成27年11月5日から令和4年1月31日までの間で2回にとどまること。

2 モナコインの本質

モナコインは、当初電子マネーとして使用されるように開発されましたが、電子マネーとしての機能を実現するために、ブロックチェーンという技術が用いられました。総務省『令和2年版情報通信白書』278頁によりますと、ブロックチェーン技術とは、「取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースの一種であり、〔...〕取引データが連鎖して保存されているため過去の記録と整合的な改ざんはほぼ不可能」であるという特徴があります。

モナコインの保有者は、保有するモナコインの処分権(移転、消滅等の変動を与える権利をいいます。)を、マイナーと呼ばれるブロックチェーンの記録者に移転することにより、ブロックチェーンという改ざんはほぼ不可能なデータベースに、仕様を満たした任意のデータを記録することができます。それゆえモナコインは、そのような記録をすることのできる地位、ないしは、そのような記録を請求する権利をもって、その本質的内容とする資産(以下「ブロックチェーン資産」といいます。)とみることができます。

そして、当該ブロックチェーン資産は、一次的にはマイナーに対して移転されるものであり、不特定の者に対して移転されるものではありませんが、ブロックチェーンにはプログラムを記録することも可能で、モナコインを移転する旨のプログラムを記録することにより、物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用すること(以下「不特定の者に対する事実上の支払」といいます。)ができます。

いっぽう、モナコインの保有者は、OP_RETURNという仕組みを用いることにより、不特定の者に対する事実上の支払を行うことなしに、純粋に任意の文字列をブロックチェーンに記録することが可能です。ブロックチェーン上の記録を調べますと、令和3年11月1日から令和3年11月1日までの間におきまして、すべての記録のうち60.4パーセントがOP_RETURNという仕組みを用いています。このため、モナコインは不特定の者に対する事実上の支払のためにのみ用いられているといったことはありません。

まとめますと、モナコインは第一義的ないし本質的にはブロックチェーン資産であり、付帯的ないし偶有的に暗号資産に該当すると考えられます。

⑩⑨の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由(別紙1-3)

1 ブロックチェーン資産の譲渡による所得の譲渡所得該当性

ブロックチェーン資産は、本質的には、ブロックチェーンへの記録をマイナーに対して請求するためのものであり、不特定の者に対する事実上の支払のためのものではないため、支払手段等と異なり、それ自体が価値の尺度となる資産には該当せず、金銭の給付を請求するためのものでもないため、金銭債権にも該当しないと考えられます。

ところで、所得税基本通達(昭和45年7月1日付け直審(所)第30号(例規)国税庁長官通達)33-1によりますと、「譲渡所得の基因となる資産とは、〔所得税〕法第33条第2項各号に規定する資産及び金銭債権以外の一切の資産をいい、当該資産には、借家権又は行政官庁の許可、認可、割当て等により発生した事実上の権利も含まれる」とされておりますところ、ブロックチェーン資産は、金銭債権又はそれ自体が価値の尺度となる資産のいずれにも該当しないため、譲渡所得の基因となる資産、すなわち価値の増加益を観念することが可能な資産と考えられます。

しかして、暗号資産の譲渡による所得は一般的に譲渡所得には該当しないものの、譲渡所得に対する課税の本質は、当該資産が譲渡によって所有者の支配を離れるのを機会に、その所有期間中の増加益、すなわち、当該資産の取得時の客観的価額とその譲渡時の客観的価額との増差分を清算して課税する趣旨のものであり(国税不服審判所昭和54年7月9日裁決(裁決事例集第18集25頁)、同平成22年6月28日裁決(裁決事例集第79号)参照)、したがって、ブロックチェーン資産が暗号資産に該当する場合におきましては、当該資産が不特定の者に対する事実上の支払のためにのみ用いられているときを除き、当該暗号資産の譲渡による所得には、本来の譲渡所得の本質を有する部分も含んでいるとみるべきであると考えられます。

思うに、このような場合におきましては、所得の実体に応じた課税という観点からは、譲渡所得と所得税法第27条に規定する事業所得ないし同法第35条に規定する雑所得とに分けて課税することも考えられますものの、当該暗号資産の譲渡による所得のうち譲渡所得に当たる部分を客観的に求めることは困難であり、かかる取り扱いは、客観的価額をもって課税するという譲渡所得の趣旨に反するものと考えられます。さりとて、譲渡所得の本質を有する部分を含んでいることを無視して、当該暗号資産の譲渡による所得を事業所得又は雑所得として課税することは、法律の明文規定に反すると考えられます。けだし、所得税法第27条に「事業所得とは、〔...〕譲渡所得に該当するものを除く」ものとなし、同法第35条に「雑所得とは、〔...〕譲渡所得〔...に〕該当しない所得をいう」と規定するに鑑みればです。

されば、たといブロックチェーン資産が暗号資産に該当し、支払手段に類するものであるといたしましても、当該ブロックチェーン資産が不特定の者に対する事実上の支払のためにのみ用いられているといった特段の事情のない限りは、収集品としての支払手段等の場合と同様、当該ブロックチェーン資産の譲渡による所得は、原則として譲渡所得に該当するものと取り扱うのが相当であると考えられます。

2 暗号資産モナコインの譲渡による所得の譲渡所得該当性

そこで、このことを暗号資産モナコインについて検討いたしますと、モナコインは、第一義的にブロックチェーン資産であり、暗号資産に該当しますものの、当該資産が不特定の者に対する事実上の支払のためにのみ用いられている等の事情はありませんので、当該ブロックチェーン資産の譲渡による所得、すなわち暗号資産モナコインの譲渡による所得は、原則として譲渡所得に該当することとなります。

3 本件所得の譲渡所得該当性

果たしてしからば、本件所得は暗号資産モナコインの譲渡による所得であり、上記の通り原則として譲渡所得に該当しますところ、当該所得は所得税法第33条第2項各号に定める所得に該当しませんので、譲渡所得に該当することに帰着します。

4 結語

よって、本件所得は譲渡所得に該当しますので、事前照会の趣旨のとおりと相成ります。